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□茜色に染まる
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夕暮れの駅前通り。


秋の風が吹き込み肌寒さを感じさせる。気が付けば季節は移り変わり空は赤々と茜色の秋の空に染まっていた。

飛び交う喧騒の中に自らを売り込むように香ばしい甘い香りと特有のぽーっと音を立て待ち構えている。


『焼き芋かぁ』

焼き芋屋を見るとそんな季節になったのだなと実感させられる。それと同時に、きゅうううっと胃が痙攣に似た収縮すると、急に空腹が訪れてくる。
夕飯時のお腹が空いた丁度その頃に合わせて出没するヤツの甘い香りに誘われてつい買ってみようかな。そんな気になってしまう。

『うん…。小銭ぐらいなら持っている』

気がつくとその甘い香りにつられ歩き出していた。







「ダイエット中じゃなかったのか?」
後ろから聞き慣れた声に大きく振り向く。


『……あ、副長…』

「焼き芋。……買おうとしたんだろ?」



切れ長の漆黒の双瞼で見詰められつい言い訳の言葉を探してまう。
だが、大概そういう時は言い訳なんか思いきやしない。
最近涼しくなってからはやたら食欲が増し体重が三キロも増えてしまっていた。 そして、ダイエット宣言したのは昨日の事だったか。


『うんん……。見ていただけだもん』
くるりと方向を変え、内心痛いなと思いながらななこは屯所に向かい歩き出した。


「……へぇー。見ていただけねぇ」
何でも見抜いていますと言わんばかりの低い声で土方は言った。




こんな時はどんな顔をしたらいいのだろうか。




『帰ろっかー』
つかつかとななこは歩き出した。こういう場合は話題を変えるのが一番だ。







『…最近すっかり寒くなったよね』

「ああ…。そうだな」

土方はななこに追いつくと隣を歩く。







駅前通りの立木はちらほらと赤や黄色に色づいてきている。




『さむーい。半袖で来るんじゃなかった』

日中は汗ばむほど熱いのに、朝晩はぐんと冷え込む。その温度差に風邪をひいてしまうんだろうな。ふとそう思った。



ななこは身体を屈め、両腕を擦って歩いた。





「ほら。暖かいぞ」

土方は立ち止まると隊服のポケットに手を入れろと言わんばかりに隊服のポケットを広げた。




『……あ、うん』

遠慮がちに土方の隊服のポケットに手を入れる。






なんだか、人の多い道で一つのポケットに手を入れて歩くのはバカップルみたいで恥ずかしい。


……でも、たまにはいいか







土方のポケットに手を入れると土方の温かい手が重なった。

そして、ポケットの奥深い所に紙袋らしいものに包まれた温かい物に手が触れた。






何かと思いさわさわとその丸いものを手で撫でると感触ですぐわかる物。


『……あったかい…。……焼き芋?』
見上げるように土方に視線を向けた。




「ななこ…大好きだもんな。焼き芋」
土方は口角上げ穏やかな笑みで笑った。






その笑みに思わず心臓が高鳴り頬に熱を帯びていくのが自分でも良く解かった。



そして、その熱を必死に抑えながらななこは言った。





『……食べたかんでしょ?…自分も…』



「まあな。……あ、でもソレあげねェよ。焼き芋」

『へ?私に買ってくれたんじゃないの?』

「ななこダイエット中なんだろ?」

『……明日からにする』

「根性ねェなァ〜。」

『……うるさい…』




口を尖らせ反論した。
やっぱり色気より食い気だよね。こういう時は。












「……ま、ぽっちゃりした二の腕やぷよぷよしたななこの腹も抱き心地が良くて好きだなんだがな」

そう言い土方はななこの二の腕を摘まんだ。



『も〜〜!絶対痩せてやる!!焼き芋もいらない!』


そう言いツカツカと早足で土方の前を歩いた。







この人の何気ないセクハラ発言に毎度ドキドキさせられてしまう自分が嫌になる。
今だって顔が赤いに違いない。








そんなななこの様子が可笑しくて土方は後ろから笑って眺めていた。

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